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色々な雑記。

ユスリカ

自分が宮崎駿監督の発言で一番好きな言葉。

出発点―1979~1996

出発点―1979~1996

  • 作者:駿, 宮崎
  • 発売日: 1996/08/01
  • メディア: 単行本

うちの近所のどぶ川なんて,毎日のぞいていると,日に日に様子がかわります。今はずいぶん減ったのですがユスリカが大量発生した時期がありました。羽化する時は水面から一斉に羽化します。その前はもっと汚かったからユスリカすら発生しなかった。ちょっとましになってきたので大量発生したんです。見ているとユスリカは生きていくのに大変なんですよ。都市化されてるから水かさが日々変わるでしょう。
ちょっと雨が降るとワァーと水かさが増えて,みんな流されてしまう。水が減ってきてようやくまた幼虫が住み着くんです。一人くらい,どぶ川でユスリカが健気に生きているというフィルムを作って送ってくれないかと思ったんですね。ユスリカの運命はぼくらの運命そのものです。それを許せなかったら人間そのものを許せなくなるから……

宮崎駿監督は、たとえ寿命が30歳くらいだろうと縄文時代が日本人が一番幸せだった時代だ、みたいな文明批判的なこともよく言うけど、ユスリカの話みたいな人間の矮小さと折り合いをつけることについても語ってくれるところになるほどと思う。人間が人間を人間だと意識する前、赤ん坊が生まれてすぐに死ぬほうが多数派だった時代から人間の脳みそはほとんど変化してはいなくて、本能だってそのままだ。でもそういう時代のほうが自然だから正しいだなんて、今の時代を生きている自分にはとても言えない。昔の人間は昔の人間なりに幸せになるための価値観を共有していたし、今の人間は今の人間なりの価値観を共有している。未来の人間だってそうだろう。
漫画版のナウシカ宮崎駿監督が人間という存在に折り合いを付ける過程の結晶みたいなものだ。でも折り合いを付けた後の作品よりも、付ける前や付けていく過程の作品の方がパワーはあった。たぶん構成という嘘をついてでも伝えたいものがなくなって、本当のことをそのまま語る方に興味が移ったせいもあるのかもしれない。制作中の新作は冒険活劇になるという話だけどどういうテイストになるんだろう。