メモ帳用ブログ

色々な雑記。

鯉登音之進も、愛する人が言ったから、という部分以外でも鶴見の大義に賛同していた。鯉登は誘拐事件の真相を知った後、「鶴見中尉殿の行く道の途中でみんなが救われるなら別にいい」という月島の言葉を肯定し、「そのために私や父が利用されていたとしてもそれは構わない」と断言した。
自分がかつて監禁された建物で鶴見に「だがこの戦が終わって何も得られなければ」「部下たちを中央から守るため いや あなたから守るために私は……………!!」と告げたのも、あくまで鶴見の計画が破綻しそうでみんなが救われる道を辿れそうになかったからだ。もし鶴見の計画が成功していれば鯉登は鶴見への愛を失ったままでも部下でい続けただろう。月島は右腕と言ってもあくまで秘書的な立場であることを考えると、鯉登は必要な諫言を指導者にできる良い副長になれたのかもしれない。あくまで鶴見が許容できればの話だが。
鯉登は鶴見に諫言した時点ではまだ権利書さえ手に入ればみんなが救われる道があると信じていた。鶴見を追って列車に乗った時もそう思おうとしていただろう。だが尾形が理解していたように、客観的にはもう権利書ごときでは事態の収拾は不可能だった。鯉登も部下を見捨てられずに鶴見に付き合いつつも、どこかでそれを悟っていたはずだ。一方で月島は精神が摩耗するあまり鶴見を疑うことを完全にやめてしまっていた。権利書を手に入れて渡し、重症を負いながらも、ともに戦うつもりで鶴見の伸ばす手を掴もうとした。そんな月島を鯉登が引き止めた。この時月島は「俺は鶴見中尉殿のそばで全部見届ける!!」と拒絶しようとした。これを聞いた鯉登はかつて自分が誓った「私は鶴見中尉殿と月島軍曹を最後まで見届ける覚悟でいる」という言葉を、少なくとも月島にとっては反故にしつつあることを意識していただろう。だが鯉登にとっては、ここまで事態が悪化し、さらに月島までが盲信の果てに犠牲になるとすれば、もはやみんなが救われる道など残されていなかったのだ。
もし鶴見がアシㇼパに語った言葉が真実だと鯉登も信じられていたら、鯉登は鶴見の言葉を盲信する月島を引き止めなかったかもしれない。鶴見の真意は信じられなくても、建前だろうが大義を成し遂げてくれると信じられる状況だったら、自分も最後までともに戦って死のうとしたかもしれない。だが状況は真意も大義の実現性もとても信じられないところまで行き着いてしまった。鶴見は自分には見定められない人間だと鯉登は見定めてしまった。それが鯉登なりに最後まで見届けて得た結論だ。