メモ帳用ブログ

色々な雑記。

キロランケはウイルクは変わってしまったと嘆いていたけど、実は大して変わっていなかったんじゃないかという疑念がある。なにせ前後を比較した人間がキロランケ1人で、そのキロランケはウイルクに夢を持ちすぎていて実像を正確に把握できたとは考えにくい。
ウイルクは方向性の決裂が明白になり、将来自分と対立するのが目に見えていたキロランケを殺害することができなかった。キロランケは以前のウイルクなら合理的に自分を殺害したはずだと考え、変わってしまったウイルクに対する失望をより深めた。
でも本当にその理解は正しかったのだろうか?ウイルクにとってユルバルスやソフィアは10年以上ともに逃亡を続けてきた仲間だ。特にユルバルスは皇帝暗殺当時の15歳から助けてきた。自分が先に方針転換したくせに相手を殺すなんて、弱くならなくてもできなかったかもしれない。
ウイルクには追手から逃れるために瀕死の仲間の1人を迷いなく介錯した過去がある。その決断力にユルバルスは憧れていた。少年のうちに指名手配犯になったユルバルスにはウイルクとソフィアを信じてついていく以外に生きる道がなかったという事情もある。ウイルクは決断を誤らないことでユルバルスを、ソフィアを、他の仲間たちを守ってきた。ウイルクの冷酷さは常に他の誰かを守るために発揮されてきた。ウイルクの憧れたオオカミの生き方とは、あくまで群れのために最善の合理性を発揮する生き方であり、利己的な合理性とは異なる。
同様に、家族ができて弱くなったせいで極東連邦を諦めた、というのもキロランケの決めつけかもしれない。確かにウイルクは妻子を得たことで北海道が第二の故郷になった。故郷、しかも自らの手で得た第二の故郷というものを大切にするこの漫画において、その意味は大きい。
だがウイルクたちはロシアで10年以上活動し、現体制にダメージを与えこそすれ、極東連邦という新体制の樹立については成果らしい成果を出せていなかった。また運搬に困難が伴う金塊をどうにかロシアに持ち込めたとしても、逮捕されてしまっては意味がない。金塊を発見したらまずは自分を追う者のいない北海道で足場固めをする、という現実的な選択肢は当初からウイルクの中にあったかもしれない。後にソフィアが考えたような案ならユルバルスにも許容範囲だっただろう。しかし合理的な検討を重ねた結果、北海道独立に注力するのが現実的だと認識せざるを得なくなった、北海道が故郷になったからこそ現実的な判断ができた、ということではないか。
一方で、金塊発見を優先して今は棚上げしているがアイヌたちにも後で必ず極東連邦計画に賛成してもらう、とユルバルスを騙すこともできなかった。ウイルクは仲間に対して腹を割って話さないことはあっても嘘をついたことはない。ウイルクの合理性はあくまで群れのためのものであって自分のためのものではないからだ。方便を使うべきところで誠実だったばかりに仲間割れを招いてしまった面はある。特にユルバルスはちゃんと騙して利用してもらえたほうが幸せだったかもしれない。