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色々な雑記。

第210話『甘い嘘』の確認。
■扉絵で、月島の顔の上に鯉登の顔をクソコラした鶴見とのツーショット写真から鯉登の顔が取れてかけてしまっている。鯉登が鶴見への盲信を失いつつあることの暗示。だが後の展開でまだ愛まで失ったわけではないことが示される。
■第210話のはじめから鯉登は月島が自分の誘拐の実行犯であることを確信している。それでもまず月島と一対一で向き合い真相を語ってもらおうとした。この時点で鯉登の第一の目的が父親に鶴見と月島の陰謀を告げ口することではないのが明確だ。鯉登は信頼する補佐である月島に、自らの口から真実を語ってもらいたいと考えていた。月島の語る内容によっては鶴見にも父親にも話さずに2人だけの秘密にする選択肢は最初からあったはずだ。実際にそうしているように。鯉登は父親に第七師団の悪事を暴露したければ機会はいくらでもあった。あの時鶴見に父上の前で全部白状させると言ってしまったのは、いくら問い質しても月島は誤魔化すばかりで頭に血が上ってしまったからだ。月島は鯉登が真相を求めて鶴見に突っ走るのを止めるために脅しに近いやり方で陰謀を暴露した。ただ、曲がりなりにも真実を明かしたことで結果的に鯉登の信頼は繋ぎ止められた。
■鶴見に利用されたのは鯉登親子だけでなく尾形百之助と花沢幸次郎の親子もだ。鯉登は父親の親友の花沢が鶴見に殺害されてその息子で自分の知人である尾形が手駒にされた、という疑惑については真剣に怒っていたように見える。だが、月島は花沢を殺害したのは尾形で尾形もそれに満足しているという思いもよらない事実を明らかにする。鯉登からすると自分が怒るとか怒らないとかの次元を超えてしまった。
■第210話で鯉登と月島が語り合った鶴見主導の陰謀は3つある。花沢・尾形親子の事件は鯉登が手出しできる性質のものではなかった。月島の事件は鯉登には何一つ理解できないがとりあえず鶴見について行きたいという。しかし愛を注がれたり試されたりしたらしい月島は明らかに救われていないようでもある。最後に残るのが鯉登親子の事件だ。鯉登音之進は混乱しながらもとっさにこう叫んだ。

鶴見中尉殿スゴ〜〜イ!!
それじゃあ鹿児島で偶然出会ったのも仕込みってことではないか?
あんな誘拐劇までして…
そんなに必要とされていたなんて嬉しいッ

これが意図的な誤魔化しではなかったことは後に数々のセリフや展開で明確になる。ただ、素直な心をそのまま叫んだだけかというとそれとも違う。混乱する中で無理に絞り出した言葉であったし、特に様子のおかしい月島と向き合うことからは逃げてしまった。鯉登はアシㇼパの故郷で月島と向き合い直す。
鯉登は鶴見が自分の誘拐事件の首謀者だと知った後も、敬愛し、必要とされたいという気持ちを保っていた。自分の誘拐の実行犯だと知った月島に懐き続けたのと同じだ。だがその後もなんのかんのと任務より鯉登の命を優先し続けてくれた月島とは違い、盲信から覚めた後で見えてくる鶴見の姿とは不誠実な上官でしかなかった。鶴見は甘い嘘を繰り返して部下たちを誑かし、ご立派な大義名分を掲げて無謀過ぎる作戦に部下を駆り出した。鯉登は最後の最後でも鶴見に対する愛情を持っていたが、行動からは切り捨てざるを得ない瞬間が訪れる。鶴見の部下としての自分から月島たちの上官としての自分に意識を切り替えざるを得なくなる。