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鯉登が鶴見の下から逃亡しようとする谷垣とインカラマッを助けたのは、鶴見が絶対的に正しい存在ではなく、特定の立場においてのみ正しい存在でしかないと気づいたからだろう。
鯉登は樺太編の終盤で鶴見が自分たち親子を陰謀を巡らせて利用していたことに勘付き、月島からそれが事実であることを教えられた。それまでは鶴見の絶対性を疑ったことなんてなかったはずだ。だから鶴見の政権転覆計画は絶対に正しく、絶対に実現するものだと思いこんでいた。父親が中央への不信から政権転覆計画に参加したことも、なおさらにその思い込みに拍車をかけた。鶴見に敵対する者を殺すことに何の疑問も持たなかった。
だが鯉登は鶴見に騙されて利用されている事実を月島に暴露される。鶴見への絶対的な信仰は失われた。鯉登はそれでも鶴見を愛していたし、鶴見が立派な人間であることを信じようとしたが、その信頼は生身の人間に対するものへと変わってしまった。見方を変えればより健康的な感情へ変化したとも言えるのだが。
だから鯉登は、特定の立場においてのみ正しい存在でしかない鶴見を谷垣とインカラマッが信じられないというのなら、信じられないからその立場から抜けたいというのなら、それを押し止めることには何の正義も道理もないと考えたのだろう。
鯉登は逃げたいものは放っておけばいいと言い、自分は最後まで見届けると言った。鶴見がみんなを救ってくれるのなら自分や父は利用されても構わないと考えたからだ。鶴見が絶対的に正しいわけではないと理解したからこそ、鶴見の正しさを信じることは紛れもない鯉登自身の選択になった。月島も鶴見について行くことは決めていると以前に語っていた。しかし鶴見の目的がとんでもないことだと信じてそれ以上追及する気のない月島とは違い、鯉登は鶴見の目的に正義があるのか確かめたいのだと言う。それは月島が正義を信じられないまま鶴見の下で汚れ仕事を行い、罪悪感と後悔に苦しんでいることを知ったためだ。自分が鶴見について行くことはすでに決めているが、前向きな気持ちでそうできると信じるために、鶴見の正義を確かめる。そして、だからこそ、絶対的に正しい存在ではない鶴見の下から逃げるという選択をしただけの谷垣とインカラマッを殺害することに正義があるはずがないから、たとえ鶴見の意向に反したことだとしても、自分たちはあの2人だけは殺してはいけない、そう月島に呼びかけた。月島は自分はいまさら正義や罪悪感について考えても手遅れなのだと反発したが、鯉登が月島の頑なさに理解を示したことで態度を和らげることができた。