メモ帳用ブログ

色々な雑記。

誘拐の真相を鯉登に暴露してしまったことを月島は絶対に鶴見に報告していない。どう考えても報告しないのは裏切りだけど、絶対にしていない。
鶴見の目的が「日本の繁栄と満州を日本領にすることによる部下への弔い」という大義と、「ウラジオストクを日本領にすることによる妻子への弔い」という私情、そのどちらにあったのかは最後までぼかされて終わった。どちらにせよ、鶴見は自分の私情を宝物のように大切にし、それでこの世を動かそうとしていた。私情を利用され、踏みにじられ、捨てさせられてきた部下たちとは正反対だ。
尾形に誘拐の真相を仄めかされた後、鯉登は尾形親子と自分たち親子が鶴見に利用されたのではないかと考えた。居ても立っても居られなくなり、「父上の前で全部明らかにさせる」と月島に語った。尾形の父の花沢は鯉登の父親の親しい友人でもあった。だが思わぬ真実が暴露される。花沢を殺害したのは尾形だという。しかもそのことで満足できたという。さらに月島は自分自身も利用されてきたと語り、意味はよくわからないがとにかく様子がおかしい。それでいて、鶴見ならとんでもないことを成し遂げられるから最後までついていきたいと告げてくる。この時の鯉登は考えを纏めるのが大変だったようで、散々に冷や汗をかき息も荒くなっている。だがとりあえずは鶴見を敬愛しているという感情を自分の思考の中で最上段に押し上げることにしたようだ。尾形も月島も鶴見中尉に利用されたとは言うが、2人ともそれで満足しているそうだ、だったら自分も鶴見中尉に必要とされたことを素直に喜んでもいいじゃないか、と。ただこの考えは、まんざら嘘でもないだろうがやはり無理のある思考だ。
鯉登は敬愛する鶴見に必要とされたことなら、どんな無体を働かれたとしても喜んでも従っただろう。「鶴見中尉殿の行く道の途中でみんなが救われるなら別にいい」と月島は語り、後に鯉登も同意して「そのために私や父が利用されていたとしてもそれは構わない」と答えた。その気持ちに嘘はない。だが鶴見の汚れ仕事で疲弊していく月島を目の当たりにし、他方自分の私情だけは慈しんで守り抜く鶴見の姿を知っていく。この道を進んで救われる者とは誰だろう。鶴見の掲げる大義を信じ、敬う気持ちに変わりはないが、盲目の愛は薄れていく。そんな時にふと、かつて自分が誘拐された建物へ鶴見に連れて行かれる。愛で麻酔していた恐怖が蘇ってくる。
鯉登が過去の誘拐事件の真相に感づき、自分に対する愛が薄れていることを、あるいは鶴見は悟っていたのかもしれない。この計画が終わるまで使い物になるかどうか試し、場合によっては恐怖で従えることも考えたのかもしれない。だが鯉登は、自分たち親子はどうなっても構わないが、場合によっては部下たちを守るためにあなたを裏切らなければならないと告げた。愛による呪縛は解けてしまった。
そして鶴見は「いいだろう 殺しなさい」と自分の命の危機をあえて明白にすることで、今度は月島を操作しようとする。